0014 ビジョン短歌B04

ジャブロゴス 包むパトスに 切るエトス

道理花道 無理歌舞伎道

ビジョン短歌B01の復習になるが、コミュニケーション(=発信者が受信者に向けてフレーズを発信する行為)には必ず目的がある。

その目的達成のために誰かに行動させる。

誰かに行動をおこさせるには、その誰か=受信者を変化させなくてはならない。

誰か=受信者を変化させる、これをここでは説得と呼ぶ。

チームにおいて何かをなしとげようとすることは、その誰か=受信者を説得することとほとんど同じである。非常に雑駁な計算ではあるが、一つのプロジェクトで、チーム内外平均各3人、合計6人のキーパーソンの説得が必要というデータもある。実際、6人の説得に成功し、自分の味方になってもらえればおおよそそのプロジェクトの成功に道筋をつけたと言えるだろう。そして、ビジョン短歌B04を接種していると、説得スキルが上昇するので、プロジェクトの成功率はおおよそ15%~20%上昇するというデータもある。

さて、説得とは何であろうか?

ここでは、説得を、

① まず自分には目的があり、

② その目的を遂行するためには味方が必要で、

③ 自分以外の誰かに納得してもらって、味方になってもらうこと

と定義する。

そのためには、味方になってもらいたい人に納得して行動してもらうことが必要になる。人間が納得して行動する、その基本は3つ、ロゴス・パトス・エトスである。

と、ここまでは自己啓発系の書物なら多くの本に書いてある。

しかし、理屈はわかっていても、誰かと議論する、誰かを説得する、自分の味方になってもらう、と考えた時、ロゴス・パトス・エトスの3つを自在にとっさに使える状態にして自分の中に常備しているか、と問われるとそのような状態になっている人間は決して多くはない。

そこで、説得・交渉の場面になった時、すぐにこの3つを思い出せるように、マントラブロックしてしまう。これがビジョン短歌B04の目的である。

<ビジョン短歌B04> 上の句

ジャブロゴス 包むパトスに 切るエトス 

ビジョン短歌B04では、

ロゴス → 「ジャブ」、 パトス → 「包む」、 エトス → 「切る」でシンボライズしマントラブロックしている。

これは何か?

じゃんけんに例えているのだ。

そう、説得とは、自分が提示して相手が受ける。または相手が提示して自分が受ける。説得も交渉も二者以上の複数人が対峙しお互いに「手」を出し合い、その「形」を見せ合うところから始まる。つまりイメージはじゃんけんではないか、と言い出したのはMSである。

MKも最初聞いた時には驚いた。いくらなんでも単純化のしすぎではないか、とも思った。ギリシャ哲学に端を発する説得の3要素も、MSにかかれば、ジャンケンのグー・パー・チョキにすぎないのだ。MSにとっては多国間の高位官僚による説得や交渉もじゃんけんみたいなものなのか、と感じて少々、(あるいはかなり)忸怩たる思いを持った覚えがある。しかし、MK自身がビジョン短歌B04を接種し、さらにはチームMK・チームMSのメンバーに処方し、説得力・交渉力・さらには製造力が強化されてゆく様子を観察するうちに、ロゴス・パトス・エトスを、わかりやすく自分の中にマントラブロックしてしまう一つの手段としてじゃんけんに委託してしまうのは便利かつ画期的なアイディアであって、どうしてこんな方法を思いつくのか、どうしてこんな発想が生まれてくるのか、あらためてMSの独自性に多少の畏敬の念を抱いたのだが。

誰かを説得する、あるいは、誰かと交渉するにあたって、まず、自分のプラン・目的を意識したら、ビジョン短歌B04を唱える。

ジャブロゴス 包むパトスに 切るエトス

誰かの説得、すなわち自分のプランを説明する場合、まず軽くジャブ、すなわちロジックから話を切り出し、そしてパッション、情熱で大きく包み込み、そしてエトス、社会正義で鋭く切り込む。

この基本3要素を自分の中にマントラブロックしておく

ロゴス = グー ⇒ ロジック

パトス = パー ⇒ パッション

エトス = チョキ ⇒ エシックス

である。

そして、

① ロゴス = グー  → ロジック  → 「得」 か 「損」 か

② パトス = パー  → パッション → 「好き」 か 「嫌い」か

③ エトス = チョキ → エシックス → (正義の)「味方」 か「敵」 か 

相手を説得するには、すなわち相手に納得してもらうためには、相手に会いまみえる前に上記3つを整理しておく。貴男の計画・提案を発信する前に、自分の提案は受信者である相手にとって、

① どんなところが「得」で、どんなところが「損」なのか

② この提案は受信者が「好き」になれるのか「嫌い」なのか

③ 受信者の観点を想像してみて → 受信者にとって(正義の)「味方」 か「敵」か 

上記3点の視点から整理しておくことができる。説得や交渉をするにあたって、ビジョン短歌B04を、提案を発信する前に、唱える習慣を身に付けておけば

① 受信者の現在の状態を予測し、

② 貴男の提案が、受信者のロゴス・パトス・エトスそれぞれのどの感情をどう惹起させ、相手をどういう状態に変化させるか、を意識するきっかにできる。それは発信前の貴男の提案内容だけでなく提案方法・タイミングや提案背景の説明の強弱にも影響を与える。

とは言えもちろん、(MS自身も認めていることだが)これはあくまでなじみやすく心にとめてしまうためのフレームワークとしての方法である。当然のことながら、現実の説得・交渉はじゃんけんほど単純ではない。また、じゃんけんとの違いにも留意が必要だ。

まず、ロゴス・パトス・エトスは互いに3すくみになっているわけではない。現実に引き合わせた場合、紙をたやすく破砕するような大きくて重い石もあれば、石を切り刻むような強力なハサミもある、また、どんなハサミにも裁断不能の厚くて固い紙もあるかもしれない。

そうだとしても、実際このビジョン短歌B04をマントラブロックしておくことは作者にととっても有効だった。何故なら、どんなに勉強しても、下しらべをしても、さらには準備を重ねても、とっさにつかえなければ製造力の強化にはつながらない。その点、戦略ルルルと同じように、取り急ぎ、説得の3要素をグー・パー・チョキに例えて戯画化して、自分の中でマイマントラにしてしまうには、ジャンケンというきわめて単純、かつなじみ深いニゴシエーションの原点に帰着させてしまう手法は便利だ。交渉や説得にとりかかる準備だけでなく、例えば貴男が交渉の場に臨んでいる時に、相手から疑問を提示されたり、論点を切り替えされたりする、または人前でプレゼンをして何か質問が出る。あ、やば、これは想定していなかった、予想外の質問だ、または思ってもみなかった視点だ、と、とっさに劣性になりそうになる時がある。こんな時一番大切なのはうろたえないこと、突然 黙り込んでしまったり、あるいはへんに饒舌になってしまったりしないことだ。取り急ぎきっちり受け止め、受けた質問の意図を考えること。その時の手段として、ビジョン短歌B04を唱える。何、ほんの3秒だ。このくらいの沈黙なら気にするほどのインターバルではない。このビジョン短歌B04を唱えて、一旦体制をととのえる。心のクリンチみたいに。

唱えると思い出す。

① 説得の基本は、「人間にとっての価値」の提示であること、

② 価値には大きくわけて3つあること。

③ その3つとは、ロゴス・パトス・エトスであること。

今自分は、じゃんけんをしているのだ、と思い返す時間を持てれば、相手が今何の手を出しているのかを考察するきっかけをつかめる。

相手が疑義を呈しているのは、ロジックなのか、パッションなのか、エシックスなのか。

自分が出したどの「手」にどんな「手」を返してきているのか。

それを、グー・パー・チョキのイメージでいったん受け止める習慣を身に付けていれば、これは大きなアドバンテージである。

貴男は、説得にあたって、交渉にあたって、一番大切なのは、なんだと思いますか?

それは、自分の最終的な目的が何なのか、を意識して行動しているかどうか、である。

時に、議論に熱くなってしまうと、当初の目的を忘れてしまう。議論にまきこまれ、相手を論破することを目的にしてしまいかねない時がある。

しかし、ビジネスはディベートではない。ディベートで勝つことよりもビジネスで勝つのが大切だということ、そして、自分の目的はそもそも何なのかを常に意識してなければならない。相手・受信者に自分の味方になってもらうことが目的で、説得はその手段にすぎない。本来の目的を見失ってしまってはしょうがない。自分が説得者の場合、被説得者の場合、交渉に臨む場合、交渉前の準備、交渉中ヒートアップしてしまった時のクールダウン、それぞれの局面で、自分が出す手がグー・パー・チョキのどれなのか。

相手が出しているのがロゴス・パトス・エトスのどれなのか。

行き詰った時は、説得手法のこのビジョン短歌Bを唱えていったんものごとを整理するのだ。

相手は今、ロゴス・パトス・エトス、何を出しているのか、そして自分は何を出してどう対応・対抗するのか、をとっさに考え直す契機になりうるのだ。

そして、下の句

「道理花道 無理 歌舞伎道」である。

説得した結果、自分と被説得者、またはそれまでの交渉相手は同じ道を歩んでゆくことになる。今説得に成功した誰かに、さらにカスケードして誰かを説得してもらう場合も多い。その説得の道筋が、道理が通るまっすぐな道であれば問題はない。道理に従って王道を、すなわち花道を堂々まっすぐに歩んでゆけば問題ない。

とは言え、しかし、だが、だけど、そうとばかりは限らない。時には無理やり、苦しい設定・無理難題の場合もたくさんある。

そんな時、意識するのは「歌舞伎道」である。

「歌舞伎道」は時に「傾き道」でもある。

イメージとしては、派手な衣装、大げさなもの言い、異形。大見栄とはったり。

正道・まっすぐな道・誰から見えてもどこから見ても王道としての花道からは外れた、あらゆる方法を道筋として歩む必要がある。いっそ歌舞伎役者になった気持ちで居直って突き進め、そのくらいの気持ちでちょうどいい、という感覚だ。

実はこの下の句には、下記のバージョンがある。

(* その他バージョン)

道理花道 無理 楽屋道

道理花道 無理 けもの道

道理花道 無理も花道

このビジョン短歌B04をマントラブロックしておけば、説得・被説得・交渉の各場面でマントラシャウトすることによって、自分を冷静にたもつことができる。

誰かと深く話し合うとき、誰かを説得したいとき、自分が説得されているとき、まずどこにどんな論点を設定しているのか、

相手の主張は、ロゴス、すなわちロジック、損得なのか、それともパトス、パッション、すなわち好き・嫌いなのか、それともエトス、社会正義の敵味方、なのか。それに敏感になることでできる。

<余談:

MKはビジョン短歌B04をある格闘家に処方したことがあるのだが、その格闘家は以下の話を語ってくれた。

綜合格闘技の世界では、まず、打撃戦になる。相手の間合いに入って、パンチやキックで応酬する。柔道においては襟の取り合いだ。そして、間合いが詰まると、クリンチすなわち掴み合い・組み合い、投げ合いや首相撲の状態になる。で、最後は間接をとってきめる。

その格闘家のイメージでは、

ロゴス = グーはパンチとキック

パトス = パーは組打ち・クリンチ 

エトス = チョキは間接技である。

それを横で聞いていた、別の生徒は、グーはパンチでパーは平手うち、チョキのエトスは目つぶしだ、などとイメージしているやからもいる。

大切なのは、

① 自分が誰かを説得する、あるいは誰かから説得・交渉をうけている時に、

② 自分が、あるいは今対峙している相手が、何を目的にしているのか

③ 今出している手はグー・チョキ・パーのどれなのか、

④ そして、説得した/説得された結果二人で歩む道は花道なのか歌舞伎道なのか、

(*あるいは裏街道・楽屋道、けもの道のどれなのか、)

上記のステップをとっさに、自分の中でイメージできるかどうか、である。

ビジネスでは結果が大切、目的である結果を見据えて、そこへ至る道筋として説得がある。

それなのに、説得しているうちに何の話をしているのかわからなくなる、そもそも、何のため話しているのか、混乱したり不明確になった時、このビジョン短歌B04をマントラシャウトして体勢を整えなおす。

東京遊学四季研究会 by 三冨 圭

遊学四季法の一般公開 ビジョン短歌Bとイデアフレーズのメソッドを一般公開しています